片岡昌アーカイブ・プロジェクトと池田20世紀美術館は、2010年7月1日より、「片岡昌展 超次元アートと『ひょうたん島』」と題した企画展を開催します。
この企画展は、「ひょっこりひょうたん島」の劇人形作家としても知られる多才なアーティスト、片岡昌の縦横無尽な芸術作品制作を俯瞰する、初の大規模回顧展となります。「人形劇団ひとみ座」で制作され、日本の人形劇史に大きな影響を与えた人形群と共に、平面や立体といった枠組みを超えた『超次元アート』とでも言うべき、遊び心に溢れる作品群を展示し、片岡昌の知られざる多面的な業績を明らかにします。この機会に是非ご高覧下さい。
会期中、人形を操作できるワークショップやアーティストトーク、ギャラリートークを予定しています。日程は片岡昌公式サイト( http://akirakataoka.com/ )に掲載予定です。
この度、池田20世紀美術館で個展をする事になりました。一時はこの広い所でどうしようとも思いましたが、皆さんに私の全体像を見てもらえればいいやと思い、自然体でのぞむことにしました。見て下さった方々が、いつもの僕や、一寸違った僕を発見してくだされば、この上なくうれしいです。ではどうぞよろしく、おねがいします。

今回の企画展では、劇人形作家として活躍しながら、芸術家としても興味深い作品を多数制作してきた片岡昌の多面性を紹介します。片岡は劇人形作家ならではの発想を生かし、他のアーティストとは一線を画した多彩な作品を制作し続けてきました。人形と芸術という二つの領域を越境的に行き来しながら、無尽の想像力で作品を生み出し続けてきた片岡昌。彼が視覚文化の中で占める非常に大きな役割を再評価すべく、その作品群を一挙に俯瞰します。美術館では初めてとなるこの大規模な回顧展で、様々なスタイルの劇人形、および立体と平面を超越するような芸術作品群を併せて展示し、両者がどのようにお互いに影響し合い、これほど多様な作品制作を可能にしたかを提示することを試みます。
片岡昌は『ひょっこりひょうたん島』(NHK、1964年~69年)の劇人形作家としても知られる、多才なアーティストです。1950年から川崎市にある人形劇団ひとみ座で人形を制作する傍ら、アーティストとして様々な立体や平面の作品を制作し、1976年以降活発にギャラリーでの個展やグループ展、美術館の企画展に出品し、作品を発表してきました。非常に多作な作家でもあり、その作風の幅の広さは類を見ない程です。自由でユーモラスな作風でありながら、二次元と三次元を自由に行き来し超次元的とすら言える作品を多数生み出し、現在も意欲的に創作活動を行っています。
劇人形作家として創作活動を開始したという出自は、純粋芸術を上位に据える美術業界における彼の立ち位置を辺境的なものにしてきたともいえます。しかしながら、視覚現象としての人々の意識や無意識への影響力を考えれば、テレビというポピュラーなメディアで『ひょっこりひょうたん島』というヒット作を手がけた、片岡の存在の大きさを無視する事はできません。彼自身、創作活動の中で、劇人形制作と立体や平面の作品を制作する事に特別の区別はしておらず、それ故無所属であるがゆえの、自由に満ちた豊かな作品群を生み出しました。
片岡はリアルな人体表現が可能でありながら、劇作品の内容にあわせ自在にデフォルメを行い、実に様々なスタイルの人形を制作してきました。例えば、代表作である『ひょっこりひょうたん島』(no.1)ではろくろを使った回転体を組み合わせて人形の造形をしています。幾何学的な回転体を組み合わせることにより、シンプルでありながらも、ユーモラスで親しみやすいキャラクターを生み出し、その人形達は今も多くの人に愛されています。またこのシリーズでテレビ人形劇として初めて導入された「棒遣い」の人形は、様々なアングルでの撮影を可能にし、人形の動きをよりダイナミックで面白いものに変え、その後の人形劇でも広く採用されるものとなりました。片岡昌の人形はテレビ人形劇のスタンダードを築いたと言っても過言ではないでしょう。
また片岡は子供の為の人形劇だけではなく、1960年代から継続して、一連のシェイクスピア劇向けの人形や舞台美術を制作することにより、大人の鑑賞にも耐えうる人形美術を多数制作しました。例えば『マクベス』ではプリミティブな彫刻の造形を引用し(no.2)、また近年のバージョンでは虫のようなデザインを採用したり(no.3)と、縦横無尽にイメージを引用しています。大胆に、必ずしも劇のストーリーとは関わらないところからイメージを引用し作られた人形は、無意識下で異質なイメージを組み合わせたシュールレアリスト的な趣きをたたえています。片岡の発想力は人形美術の枠組みを大きく超え、可能性を押し広げたのです。
片岡は、劇人形美術というバックグラウンドを持つが故に、画壇系作家や、前衛的な作家のどちらからも一線を画した作品を制作しました。片岡の作品は独特のユーモアと、2次元と3次元を自由に行き来するような作風に特徴があります。
片岡は1960年代から積極的に作品を発表し始め、劇人形制作で鍛えられた自在な発想力で多様な美術作品を制作してきました。例えば『あさげ』(no.4)という中年の女性が料理をする様子を描いた立体作品では、西洋彫刻の伝統的素材であるブロンズに見せかけながらも、実はポリエステルを用いて制作しています。これは劇人形という、軽くて扱いやすい素材を用いて本物らしく見えればいいという作品制作態度を反映したもので、西洋彫刻の伝統にある素材のもつリアリティを追求する態度とは一線を画しています。またからくりを駆使し、実際の水を流す工夫で観客を楽しませようとする態度は、観客と常に対峙する劇という分野で活躍してきた片岡ならではのものです。
また『アラ、見てたのね』(no.5)も片岡の造形技術が遺憾なく発揮されているからこそ、そのユーモアのセンスが際立ちます。内部の中空を見せるという構造は作品のある種の空虚さを提示し、永続的な存在感というよりは人間の一瞬の表情を切り取ることに主眼を置いており、ロダンより続く近代西洋彫刻の持つ重厚さを裏切ります。
『人間動物園』のシリーズ(no.6)ではユーモラスでありながらもどこか残酷な表情を浮かべた、人間の様な動物達を提示します。このグロテスクでありながら愛嬌のある世界感は片岡の劇人形とも通じると言えるでしょう。
また『組立板立体』シリーズ(no.7)のうち、大きな立体作品は分解して保存・運搬する事ができ、展示時にのみ組み立てられ完成した姿となります。これもまた、記念碑的な恒久性を目指すモニュメンタルな彫刻とは一線を画しています。
さらに片岡は『埋もれし時』シリーズ(no.8)では戦時中の日常風景を切り取るかのようなインスタレーションを行い、政治的なメッセージを提示することにも積極的です。
以上のように片岡は独学で劇人形作家として創作活動を始め、次第に多彩な芸術作品を製作するようになりました。美術教育を受けずに、美術界の潮流とは一線を画し、芸術運動や流派に所属することなく、自由な発想で創作活動を行ってきたからこそ、可能であったと言えます。いわゆる美術業界の主張流から距離を置き、人形作家でありアーティストでもあるという立場から独自の世界感を展開した片岡昌の初の大規模回顧展を是非ご高覧ください。
※写真 1, a, c (ひょっこりひょうたん島 ドン・ガバチョのイメージを含む画像)を使用する場合、以下の著作権表記をお願いします。
『ひょっこりひょうたん島』: (C)井上ひさし/山元護久・ひとみ座・NEP キャラクターデザイン 片岡昌